【書評】「リーダーシップの旅~見えないものを見る」
- 書籍名:「リーダーシップの旅~見えないものを見る」
- 著者名:野田 智義, 金井 壽宏
この本は、ロンドン大学ビジネススクール助教授、インシアード経営大学院(フランス)助教授を歴任し、現在は日本における次世代リーダーの輩出を目指す特定非営利活動
法人「アイ・エス・エル(ISL)」を運営する野田氏と、神戸大学大学院経営学研究科教授でモチベーション、リーダーシップ、キャリアなどに造詣の深い金井氏による共著です。
目次
リーダーシップ幻想
まず、著者はリーダーシップを考える際に多くの人がリーダーにはすごい人だけしかなれないと考える「リーダーシップ幻想」を指摘しています。
生まれついてリーダーだった人もいないし、多くはリーダーの素養を後天的に身につけていきます。
つまり、リーダーというのは、置かれた環境の下で成長するもので、初めからリーダーを目指してリーダーになるのではなく、結果としてリーダーになるものです。
しかし、多くのリーダーシップ研究では、リーダーになった人が作り出した『結果』に焦点が当たっており、後付けの分析の域を出ていない点があります。
そのため、なぜその人がなぜ、すごいリーダーと呼ばれるようになったのかは必ずしも明らかになっていません。
この点について、著者はプロセスの視点でのリーダーシップの分析が必要だと説き、リーダーシップの発展の過程を「旅」に例えて説明しています。
リーダーシップの旅
著者はリーダーシップの旅をビジョンや理想といった「見えないもの」を見る旅と考え、その過程を三段階に分けています。
- リード・ザ・セルフ(自らをリードする)
- リード・ザ・ピープル(人々とをリードする)
- リード・ザ・ソサエティ(社会をリードする)
リード・ザ・セルフ(自らをリードする)
この段階では、リーダーになる人が、他の人とは違う何かを感じ取って行動を起こすことから始まります。
それは、自分は何のために行動するのか、何のために生きるかについての自分なりの納得感ある答えがきっかけになります。言い換えると、夢や大望、情熱、焦燥感、野心等がの心の声です。
その答えを得ることで、リーダーになる人の心の中で、一歩を踏み出すことをためらわせていた気持ちが「吹っ切れる」ようになり、行動を起こすことになります。
リード・ザ・ピープル(人々とをリードする)
リーダーの行動を見て、周りに居る人が共感し、フォロワーになる過程です。いわゆる「リーダーの背中を見て」人がついてくる状態です。
ハーバード・ビジネススクール教授二ティン・ノーリアによれば、「偉大なリーダとは、自分の夢を皆の夢であるかのように言い換えられる人」と言っています。
つまり、リーダーとフォロワーの夢が一体化していきます。
アメリカの公民権運動の指導者で、1964年にノーベル平和賞を受賞したマーティン・ルーサー・キング牧師がいます。
キング牧師は、1963年8月のワシントン大行進での「I Have a Dream」(私には夢がある)という演説で有名です。
キング牧師はこの演説の中では公民権という抽象的な単語を演説では一度も使っていません。その代わりに自分たちが求めている権利の内容を描いて見せた。この絵によって約20万の聴衆とその場にいなかったもっと多くの人たちが「みえないもの」を見たのです。
リード・ザ・ソサエティ(社会をリードする)
この段階では、リーダーの行動が、社会から認められ、リーダーは「偉大なリーダー」になります。
ジョセフ・キャンベルの「英雄の旅」
このリーダーシップの旅というコンセプトは、 米国の神話学者であるジョセフ・キャンベルの「千の顔を持つ英雄」をヒントにしています。
ジョセフ・キャンベルによれば、古今東西の全ての英雄伝説というのは、同じ要素から構成されているそうです。
それは、
- Calling (天命)
- Commitment ((旅の始まり)
- Thresshold (境界線:敵が現れる)
- Guardians (メンター)
- Demon (悪魔:変容させるためのリソース)
- Transformartion (変容)
- Complete the task (課題完了)
- Return to home (故郷に帰る、次のステージに上がる)
というものです。
このように、英雄ははじめから英雄なのではなく、旅に出て何事かを成し遂げて生還し、生還した旅人が英雄になると言っています。
リーダーとマネッジャーの違い
よく、リーダーと組織のトップであるマネッジャーとを混同することがよくありますが、リーダーとマネジャーは同じではありません。
この本でも、「一般的な会社や組織において、部下がトップについていくのは、トップがリーダーシップを発揮した結果によってではなく、ヒエラルキーによってだ。…ヒエラルキーの中では、リーダーシップではなく、マネジメントが日常的に機能する」と、明確にリーダーとマネジャーを区別しています。
さらに、リーダーとマネジャーの違いとして、
- リーダーは、「見えないもの」を見て、あるいは見ようとして、新しい世界を作り出すのに対して、マネジャーは「見えるもの」を分析し、それらに受動的もしくは能動的に対応しながら、漸進的に問題を解決する
- リーダーが人々の価値観や感情に訴え、共感・共鳴を得て、賛同者・支持者のネットワークを広げていくのに対して、マネジャーは組織の成員に対して、地位に基づく権威・権限を持って働きかける
- リーダーは人々の内在的な意欲に基づく自発的な行動を誘発し、同じ方向へ向かって歩みを共にするが、マネジャーは飴とムチを使って人々の行動を管理し、ある方向へ向かわせようとする
- リーダーは常に先頭を切り、本人がそこに居ないだけで支障が生じるが、できるマネジャーは本人が会社を留守にしても、組織がきちんと動く仕組みを作り上げる
リーダーとして必要な資質
それでは、リーダーとなるためにはどのような資質を持ち合わさなければならないでしょうか。
リーダーに求められる資質として、この本では五つをあげています。
- 構想力
- 実現力
- 意志力
- 基軸力
- 人間力
構想力
構想力とは、つまりビジョンを描くことです。
構想力をつけるためには、リーダーは、自分が生きている今という時代において、脈略を読み取り、将来に思いを馳せる知性が必要です。それを本書では、「リーダシップ・イン・ザ・コンテクスト」と呼んでいます。
また、リーダーは、どこに自分をリードするかを自分で決めることができます。リーダーが指し示す方向にに共振する人が大勢現れるとしたら、その時代をうまく読めている時と言えます。
さらに、構想力にはより現実的な力も含まれる。具体的には、戦略的、論理的な思考を駆使し、より具体的な設計巣を描く力です。
実現力
実現力とは、「人とのコミュニケーションを通じて、見えないものへの理解・共感を得て、周囲や組織の中で行動の輪を広げ、構想を現実へと変えていく力」のことです。
それと同時に、フォロワーが増えるにつれて、その集団を組織として運営するスキルも必要になります。
つまり、チームメンバーの多様な力を最大限に引き出す力、権限委譲とサポートを行いながらメンバーをエンパワーしていく力、チームや寄り大きな組織の仕組みや環境を整える力などです。
意志力
著者は、意志力こそが、リーダーシップの旅を始めるに当たって最も必要なものとしています。
基軸力
基軸力とは、やり続けること、やり遂げること、そのためにぶれず、逃げないことです。
人間力
人間力とは、上記の四つの力のベースになるもので、人間力を発揮するためには人の営みに対しても理解と尊敬の念を持つことが必要です。
最後に
本日の記事はいかがでしたか。
生まれ持ってのリーダーというのは存在せず、結局自分がどのように考え、行動するかが大切だということが理解できました。