【書評】「一流アナリストの『7つ道具』」
- 書籍名:「一流アナリストの『7つ道具』―フェルドマン直伝!『掛け算』の知的生産術」
- 著者名:ロバート・アラン フェルドマン
著者のフェルドマン氏は、米国に本拠を置く世界的な金融グループであるモルガン・スタンレーで日本担当チーフ・アナリスト及び経済調査部長を務めた経歴の持ち主で、テレビ番組などでもよく見かけます。
この書籍は、フェルドマン氏が長年のアナリストとしての経験をもとに、アナリストとして必要な七つの特性を説明しています。
フェルドマン氏によれば、アナリストの能力というのは、ひとつひとつの能力を「足し算」するのではなく、「掛け算」で決まると言っています。
スキルが足し算関係にあるなら、得意科目を強化すべきですが、掛け算的な関係なので、逆に苦手科目を強化することが得策になります。
アナリストに必要な七つの能力とは、
- 分析力
- プレゼン力
- 人間力
- 数学力
- エネルギー管理力
- 言語力
- 商売力
目次
分析力
分析力とは情報から「意味」を引き出す能力のことです。
著者によれば、アナリストという仕事は「混沌としている情報の中から意味を引き出すこと」だと言っています。
現代はインターネットで誰でも簡単に情報を得ることができます。
このため、どんな仕事でも情報収集においては、顧客も変わらない力を持つことになるので、仮説力や分析力が重要になってきます。
つまり、情報をただ集めるだけでなく、「情報と情報の関係」を読み取れるかが鍵になります。
特に、欧米ではそのように「情報と情報をつないで、そこに新たな意味を見いだせる人」を専門家と考えます。
また、分析のタイプとして
- 物語と事実を強調するジャーナリズム的な分析
- 数値と事実を強調するテクニカル分析
- 数字とモデルを強調する計量分析
- 物語とモデルを強調する理論分析
の四つをあげています。
これらの分析手法は状況や対象によって使い分ける必要がありますが、どの分析手法を使うのかを判断するには、感性や経験といった「アート」な力が必要になります。
プレゼン力
アナリストは調査・分析した結果を依頼先や関係者などに伝えることになりますが、この時に必要になるのが、プレゼン力になります。
プレゼン力とは、自分の意見を人に伝え、人から意見を聞き、相手の反応を踏まえた会話をする「伝える力」のことです。
プレゼン力を考えるにあたり、まずは誰に何を伝えるか、その「目的」を明確にしなければなりません。
目的が明確になったら、どうやれば相手の共感を得られるかを考えることになります。
筆者はシェークスピアの「ジュリアス・シーザー」の一場面を引用して、相手の共感を得ることの重要性を説いています。
さらに、実際に説明する際には、相手にとってわかりやすい話し方が必要です。
そのポイントは、
- ゆっくり話す
- 声を低くして、聞き取りやすくする
- 文章を短く区切って話す
です。
人間力
人間力とは、多様な相手と共に仕事をする能力です。
人間力は大きく三つに分けられます。
- 会話力
- 行動力
- 人観力(人を見る力)
です。
これらを統合して発揮されるのが人間力です。
会話力
会話では、三つのレベルでのやりとりが行われます。
- 第一のレベル:事実についてのやりとり
- 第二のレベル:発生した事実に対する自分と相手との解釈
- 第三のレベル:品位やアイデンティティに関わる感情的なやりとり
自分では事実や解釈についてのやりとりをしている場合でも、受け取る相手に取ってみれば、自分自身を否定されていると受け取ることもあり、注意が必要です。
相手と意見が対立する原因は、主に三つあります。
- 情報の違い
- 解釈の違い
- 損得の違い
です。
意見の対立を避けるためには、まず、正確な情報を手に入れることです。自分にとって有利な情報も不利な情報も集めるべきです。
次に自分の描いているストーリーだけでなく、相手側のストーリーも想像してみましょう。そして、相手の損得勘定を理解することです。
会話とは相手との相互理解を深めるものですが、交渉は相手との合意を形成するという点で違いがあります。
ハーバード・ロー・スクールのロジャー・フィッシャー教授によれば、交渉における基本原則をあげています。
- 第一は、人と問題を分ける
- 第二は、相手の提案ではなく、相手にとっての利益を注目・強調する
- 第三は、双方の利益となる選択肢を見出す
- 第四は、進捗は測定可能な基準で評価する
人観力(人を見る力)
筆者によれば、チームメンバーを選定する際には「協調性」と「能力」だけで判断するそうです。
- 能力もあり、協調性もある人:理想的な人材
- 能力があるが、協調性がない人:コーチングを通じて教育・指導する
- 能力はないが、協調性はある人:パフォーマンスが改善されなければ別の部署に異動
- 能力も協調性もない人:別の道を探してもらう
数字力
これは、数字の意味を正しく理解し、効果的に数字を利用するする能力です。
数字を使う利点は、わかりやすいことと、客観性があることです。
しかし、数字(数値目標)にも欠点はあります。
まず、「本当に望ましい行動につながるのか」という問題があります。
数値が自己目的化してしまい、目標を速やかに達成するためには、本来あるべき行動がねじ曲げられてしまう危険性があります。
また、数値は気づかないうちに操作されている可能性があります。
このような理由から、自分が使っている数字が本当に正確なのか注意を払う必要があります。
数字力を身につけるためには、
- 数字を怖がらず、簡単な問題から始める
- 結果が出たら、同じやり方をもう少し大きな問題に当てはめる
- 人から与えられた数字を鵜呑みにせずにどうやって得られたのかを考える
という習慣を身につけることが肝心です。
エネルギー管理力
これは、健康管理、時間管理、空間管理を効果的に行う能力です。
アナリストの仕事は、長時間労働も辞さない過酷なものです。
時間管理のポイントとして、
- 中長期的なスケジュール管理と日々のスケジュール管理に分ける
- 中長期的な取り組みは、テーマごとにやるべきこととその実施時期を一枚の紙にまとめ、二ヶ月毎に見直す
- 日々のスケジュール管理は、その日にやるべきことをリストアップし、優先順位と所用時間を書き出し、一日のうちどの時間でやるかをきめる
言語力
自国語だけでなく、外国語も駆使して他の国の人とコミュニケーションできる力のことです。
商売力
商売力とは、顧客のニーズをつかみ、どこにビジネスがあるのかを察知する力です。
商売力を磨くには、顧客が買っているものの「本質」を見極めることが重要です。
マーケティングの世界では「物を売る時にはは三つのブランド戦略がある」とされています。
- 品質をブランドにする
- 低価格をブランドにする
- サービスをブランドにする
です。
その上で、アナリストも「自分のブランド」を考える重要性を説いています。
自分の売りとなるスキルは何か、「そのジャンルでは自分が一番」と言えるものは何かを明確にすることです。
例えば、リンドバーグは世界中のどの国の人にも知られていますが、二番目に大西洋を渡ったバード・ヒンクラーの名前は誰も知りません。
しかし、エミリア・エアハートは、太平洋横断というカテゴリーをさらに細分化し、「女性」というサブカテゴリーをつけ、「女性として初の太平洋横断」として自分を一番にしました。
また、ブランドを作るためには、相手から信頼される必要があります。「The Trusted Advisor」という書籍の中で、「信頼の方程式」が紹介されています。
信頼性=(専門性+言ったことを守ること+親密性(相手の気持ちがわかること))÷自己中心の度合い
これは、どんなに専門性があって、約束を守り、相手の気持ちがわかっても、自己中心的では信頼性は低くなるということを意味しています。
最後に
本日の記事はいかがでしたか。
これらの能力は、経済アナリストだけでなく、一般的なビジネスマンにも当てはまる内容になっていて、参考になります。