リーダーの行動を変革するコーチングの手法とは?
エグゼクティブコーチングの第一人者であるマーシャルゴールドスミス氏は、「私のミッションは成功したリーダーがポジティブ・長期的・測定可能な行動変革を実現するのを手伝
うことだ」と言っており、リーダーが行動を変革させることがリーダーシップ力の強化につながります。
そのゴールドスミス氏が、これまでの多くのリーダーに対するコーチングの手法を説明しています。
本日は、この論文を紹介します。
なお、マーシャルゴールドスミス氏の論文の翻訳については、ゴールドスミス氏ご本人の承諾のもとで行っております。
目次
行動変革のためのコーチング
私のミッションは、成功したリーダーがポジティブ・長期的・測定可能な行動変革を実現するのを手伝うことだ。
それは彼ら自身、従業員、チームメンバーを含む。
これから述べるコーチング・プロセスの各段階を追っていく時、リーダーのポジティブな行動変革は、自分自身ではなく、事前に選んだ主要な利害関係者によって判断される。
このプロセスは、外部コーチ・内部コーチを問わず世界中で用いられており、大いに成果を上げている 。
我々の「成功報酬型」エグゼクティブ・コーチング・プログラム
我々のコーチング・ネットワーク(マーシャル・ゴールドスミス・グループ)は、世界中のリーダーにコーチを提供している。
ネットワークに所属するコーチは全て同じ実証済みのプロセスを用いている。まずコーチングを始める前に、コーチングのクライアントとその上司から二つの重要な変数について合
意を得ている。
- リーダーシップの効果を増やす点で最大のポジティブな変化をもたらす行動は何か、
- 6~8ケ月後に実際にその変化が起こったかを判断する主要な利害関係者は誰か。
我々はクライアントが主なリーダーシップに関連した行動についてポジティブな変革ができた場合、それは利害関係者がより優れたリーダーになったと判断した場合であるが、その
時にだけ報酬を受け取っている。
私は、多くのリーダーシップコーチは間違った理由で報酬を受け取っていると考えている。
彼らの収入は、「私のクライアントはどのくらい私のようになっているか」と「どのくらい時間を私はコーチングに費やしたか」の関数で決まっている。
このふたつの観点は、ポジティブかつ長期的な行動変革の実現を測定するにはふさわしくない。
コーチを好きになるという点で、私は今までクライアントのコーチに対する好みがクライアントの行動変革と深い関係にあることを示した研究結果を見たことがない。
事実、もしコーチがクライアントに好まれることに関心を持ちすぎると、コーチは正直なフィードバックが必要な時にできなくなるだろう。
クライアントの時間を使うという点で、私のパーソナル・コーチングのクライアントは全てその意思決定が数十億ドルのインパクトを持つエグゼクティブであるが、彼らの時間は私の時間よりも価値が高い。私はできるだけ短い時間で望ましい結果を出すようにしている。彼らが私に最も望まないのは、無駄に時間を使うことである!
クライアントの適格性:行動コーチングが役に立たない場合を知る
我々は「成功報酬型」のコーチング・プロセスを採用しているので、誰がコーチングのクライアントに適しているかを知らねばならない。
これは、我々がコーチング・プロセスから多くの利益を得ると考えるクライアントとのみ仕事をすることを意味している。
我々は、本当に変革したい意欲がないリーダーとは仕事はしない。
今まで、変わることに興味がない成功した成人の行動を変えようとした経験があるだろうか。
あなたはどのくらい運が強かったか?おそらく全くないだろう。我々は、変わることに対して真摯な努力を厭わないエグゼクティブやこの変革を通じてよりよいリーダーになれると信じているエグゼクティブとだけ仕事をする。
我々の最も成功したクライアントというのは、リーダーシップ開発や自社のバリューを実践するという点で最高のロールモデルとなることを約束したエグゼクティブ達である。
私は個人的に世界をリードするCEO達と仕事をしてきた。
彼らが従業員を率いるという点で一目を置かれている理由の一つが、彼らが周りの人に言うだけでなく、常に自分自身も向上させようと努力している点である。
我々の最高のクライアントは、絶えず自分自身のレベルアップという点で最高のロールモデルになろうと全力で取組んでいる人である。
いくつかの大企業は「人を見切っている」従業員をただ解雇するよりもむしろ、彼らは見せかけの行動変革コーチング・プロセスに取組んでいる。
それは、「従業員がより良くなるよう手助けする」というよりも、「見つけて、破壊する」という傾向が強いものである。
我々は、社内で将来有望と見られているリーダーや、自らのマネジメントによって公平なチャンスが与えられる人とだけ仕事をしている。経営幹部によって「切り捨て」られたリー
ダーとは仕事はしない。
コーチングにはいくつかの種類がある。
我々は成功したエグゼクティブに対して行動コーチングだけを提供している。
それは、戦略コーチングでも、ライフ・プランニング・コーチングでも、組織変革コーチングでもない。私はこれらの分野で仕事をしているコーチには最高の敬意を表する。
それは我々のコーチがしている以上のことをしている。
それゆえ、我々はリーダーシップの行動変革にのみ注力するのだ。
もし我々のクライアントが他のニーズを持っている場合、他のコーチを紹介している。
最後に、私は誠実さに欠けるクライアントとの仕事は決して選ばないだろう。そういう人は解雇されるべきで、コーチすべきでないと考える。
我々の行動コーチングのアプローチが効果を出すのはどんな時だろうか。
もし問題がリーダーシップの行動であり、クライアントが変わることに意欲がありその機会を与えられているなら、この論文で紹介したプロセスはたいてい効力を発揮する。
もし、そのような条件がない場合は、このプロセスは用いるべきでない。
主要な利害関係者を巻き込む
行動コーチとしての私の仕事で、私は三つのフェーズを経験してきた。
フェーズ1:私はクライアントは私だから良くなれると信じていた。行動変革の鍵となる変数はコーチだと思っていた。
私は間違っていた。
我々は、8万6000以上の回答者にもとづいたリーダーシップ開発に関する研究を発表した 。
この研究でリーダーシップの行動変革で成功の鍵となる変数は、コーチや教師、アドバイザーでないことが判った。
長期にわたるプロセスを決定する変数は、コーチングを受けるリーダーとその同僚である。
私は、この結果を非常に惨めなかたちで知ることとなった。
私の大半の時間を使っていたクライアントが全く改善せず、結果私は報酬を得ることができなかった! これは私にとってクライアントを変えるという点で私は重要な変数ではないことを教えてくれた辛い思い出であった。
私が最短の時間しか使わなかったクライアントが実は、これまでコーチングをした誰よりも多くの成果を上げた。彼は全く始めるには最高の人だった!その後、彼は米国のその年の
最優秀CEOとして認められた。
「最も変化した」クライアントにコーチングにおいて何を学んだかと聞いた時、彼は私に貴重な教訓を与えてくれた。
彼は私に次のように語った。
私がすべきことは、(1)正しいクライアント選ぶこと、(2)コーチングの焦点をクライアントとそのチームにあて続けること(自分のエゴやどのくらい自分が優れているかを示したい欲求にあてるのではない)の二つである。
フェーズ2:私は自分の時間の大半をクライアントとのコーチングに使っていた。
私は少しずつではあるが、意欲がありハードワークをするクライアントが聡明なコーチよりも重要なことを理解した!
彼らの継続中の努力は、私の気の利いたアイデアよりもずっと意味がある事を学んだ。
私の結果は改善した!
フェーズ3(現在):私は自分の時間の大半をクライアントとではなく、クライアントを取り巻く主要な利害関係者とに使っている。
私はクライアントが彼の周りにいる全員から何かを学ぶ手助けに注力している。
この変化により、私のクライアントが得る結果はこれまで以上に劇的に改善された 。
どうやって主要な利害関係者を巻き込んでいくのか。彼らに、現在私がコーチングをしている人を次の四つの重要な観点で助けてもらえないかとお願いしている。
(1) 過去を水に流す。
我々が絶えず過去の話を持ち出す時、我々は変わろうとしている人の士気をくじいている。
過去に起きたことは全て過去の話である。
それを変えることはできない。
(変えられない過去でなく)変えられる未来に焦点をあてることで、利害関係者はクライアントがポジティブな変化を実現するのを助けられる(我々はこのプロセスをフィードバックではなく、フィードフォワードと呼んでいる )。
(2) ひねくれ・皮肉・批判的ではなく、有用・支援的になる。
コーチング・プロセスに、クライアントが主要な同僚に助けを求めるというパートがある。もしクライアントが主要な利害関係者と接触し、改善することを罰せられたと感じると、その努力をやめてしまう。
私は彼らを非難しない。
我々はチャンスを与えてくれない人と一所懸命関係をつくろうと頑張らなければならないのか。
もし、私のクライアントの同僚が有用でかつ支援的であれば、クライアントはモチベーションを高める経験をし、より改善するだろう。
(3) 真実を話す。
私はこういうクライアントとは仕事はしたくない。それは、クライアントが主要な利害関係者から賞賛にあふれたレポートをもらってきたが、その後利害関係者の一人が「彼は本当のところ良くなっていない。我々はそういっただけだ」というのを聞いた場合だ。
これは私のクライアント・企業・そして私にとって公平ではない。
(4) 改善する何かを選ぶ。
クライアントは彼らが何を変えてようとしているのかを主要な利害関係者にオープンにしている。
我々のプロセスにはクライアントが進行中の提案を尋ねるパートがある。私はまた主要な利害関係者に改善すべき何かを選び、クライアントから提案をもらうことをお願いしている。
これはプロセス全体を「一方通行」ではなく、「双方向」にするものである。これは利害関係者が、クライアントを指差す「裁判官」としてではなく、改善という「旅行の同伴者」として振る舞えることを意味している。
それはまた、プロセス全体の強力から企業が得る価値を大きくする 。
私の最も上手くいったケーススタディのひとつに、あるトップ・エグゼクティブのコーチを依頼されたが、結果的に200名以上の社員が改善をしたというものがある。
リーダーシップコーチングのステップ
次のステップは、基本的な行動コーチング・プロセスを記述している。
我々のネットワークに所属する全てのコーチは、次のステップの導入に合意しなければならない。
もし、コーチがこの基本的なステップに従うなら、我々のクライアントは常にポジティブな変化を実現するだろう!
(1) コーチングを受けるリーダーをリーダーシップの役割として望ましい行動を決定する場に関与させる。
リーダーが望ましい行動とはどんなものかを明確に理解していなければ、行動変革は期待できない。
我々がコーチする人は(CEOでない場合は上司の合意)、望ましいリーダーシップの行動を我々と一緒になって決める。
(2) コーチング受けるリーダーを主要な利害関係者の選定に関与させる。
クライアントが望ましい行動について明快であるだけでなく、主要な利害関係者が誰になるのかについても明快でなければならない(CEOでない場合は上司の合意)。
人々がフィードバックの正当性を否定する主な二つの理由は、間違った項目と間違った評価者が選ばれるからである。
クライアントとその上司が望ましい行動と主要な利害関係者について事前に合意することで、このプロセスに対する彼らの「賛同」を得たことになる。
(3) フィードバックを収集する。
私のコーチング手法では、全ての主要な利害関係者をひとりひとりインタビューし、クライアントに対する極秘のフィードバックを得ている。
私がコーチングをする人は全てCEOかCEO予備軍で、その企業は人材開発に関して重要な投資をしている。
そのため、高いレベルでのフェードバックへの関与が正当化される。
しかしながら、組織の下位レベルでは(より価格に敏感であるが)、伝統的な360度フィードバックが非常によく機能する。
どちらにしてもフィードバックは重要である。
どんな行動について変化が必要なのかを合意していないと、行動変革の評価を得ることはできない!
(4) 主要な行動変革について合意形成する。
私は経験を積むにつれ、私のアプローチはよりシンプルにより焦点をあてたものになっている。
私は、クライアントに対して1~3つだけ主要な行動変革の領域を選ぶことを奨めている。このことで、最も重要な行動に最大限の注意が注がれるようになる。
クライアントとその上司(クライアントがCEOでない場合)は、望ましい行動変革について合意している。この合意があることで、私はクライアントと一年以上仕事をしないし、クライアントの上司が我々はクライアントの間違った行動を変化させるために活動したことを理解できるのである!
(5) クライアントに主要な利害関係者と対話させる。
評価対象者は、各々の主要な利害関係者と話をし、対象となっている主要な領域をどうやって改善させるかについて、追加的な「フィードフォワード」(提案)を収集しなければならない。
その代わり、コーチングを受けている人は、その会話をポジティブ・シンプル・集中したものにする必要がある。過去に失敗があった場合、まずはその件を謝った上で今後どう変え
ればいいか助言を求めるのは良い考えである。
私はクライアントに利害関係者からの提案を「判断」することなく「聴く」ことを奨めている。
(6) クライアントと何を学んだかを再確認し、クライアントの行動計画の作成を手伝う。
前に述べたように、クライアントは我々のプロセスの主なステップについて合意しなければならない。
その反面、基本ステップ以外では、私がクライントと共有するアイデア全ては「提案」である。
私は単にクライアントに主要な利害関係者からのアイデアを聴くのと同じように私のアイデアを聴くようにお願いしている。
それから、クライアントが何をしたいのか、そのプランに戻るようにお願いしている。
この計画は私ではなくクライアントの考えにもとづいて作られなければならない。
クライアントの計画をレビューした後、私は常に自分自身への約束に沿うよう励ましている。
私は裁判官というよりもファシリテーターに近い。
私の仕事は偉大で意欲の高いエグゼクティブが最も重要だと信じるものを得る手助けをすることで、彼らに何を変えるべきかを伝えることではない。
(7) 継続的なフォローアップのプロセスを展開する。
継続的なフォローアップは、非常に効率的でかつ焦点のあたったものにすべきだ。
「先月の私の行動から、来月私が何をすべきかアイデアはありますか」のような質問は、将来に焦点をあて続けている。
6ケ月以内に主要な利害関係者に2~6項目の簡単な調査を実施している。
この調査では、クライアントが対象の改善領域でどのくらい良く・悪くなっているかを質問している。
(8) 結果を評価し再開する。
もしクライアントがコーチングのプロセスを真剣に考えているなら、利害関係者はたいていの場合で改善があったと報告している。
次の12~18ケ月に渡ってそのプロセスを繰り返すことでさらに成果を得ようとする。
この種のフォローアップは、最初のゴールに対する継続的な進歩を確実にし、他に改善が必要な領域も明らかにする。
利害関係者も常にこのフォローアップを評価している。
もしポジティブな結果を実感しているなら、非常に焦点のあたった2~6項目の質問票に答えることを嫌がる人はいない。
クライアントは、パフォーマンスを改善するための継続的で的を絞ったステップから得られるものは多い。
(9) 結果が出た時点で形式的なコーチング・プロセスを終了する。
我々のゴールは、コーチとクライアントの依存関係を作るのではない。
私はコーチング終了後も「卒業生」とはずっと連絡を取り合っているが、継続的なビジネス関係があるわけではない。
エグゼクティブ向けの行動コーチングの価値行動コーチングは、コーチング分野における一つの手法であるが、最も良く用いられているコーチングである。
コーチングに対する大半のリクエストは行動変革に関連したものだ。
トップ・エグゼクティブにとってこのプロセスは意義深く価値のあるものだが、将来のリーダー候補にとっても有用である。
素晴らしいキャリアが目の前に広がっている人がいる。
コーチング・プログラム自体は一年にすぎないが、従業員を指揮する際に20年以上に渡って効果を得ることができる。
「エグゼクティブは本当に行動を変革できるのですか」とよく聞かれる。
答えはもちろん「Yes」だ。
クライアントが変わらなければ、我々は報酬を得ない(常に支払われているが)。
主要な組織のトップでは、ほんの僅かなポジティブな行動変革であっても、大きなインパクトを持っている。
組織の観点から、エグゼクティブがリーダーシップ行動を変革させようと努力していることは(人材開発のロールモデルになろうとしていることは)、エグゼクティブが変わろうとする以上に重要である。
私はコーチングしてきた全てのCEOに次の重要なメッセージを伝えて来た。
「他人の成長を助けるために、まず自分から始めよう」
最後に
本日の記事はいかがでしたか。
エグゼクティブの行動変革に関して、長年の成功に基づく実践的な手法になっています。