【書評】「サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠」
- 書籍名:サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠
- 著者名:ジリアン・テット
この本は、フィナンシャルタイムズ紙アメリカ版の編集長で、元文化人類学者であるジリアン・テットによるものです。
テット氏はこの書籍の中で、
- なぜ現代社会の組織では、時として愚かとしか言いようのないない行動を取るのか
- なぜ、優秀な人による組織が、リスクやチャンスを見誤るのか
という疑問に答えようとしています。
現代の社会というのは、高度な専門化・分業化が進むとともにグローバル化や情報切術の進歩によってシームレス化・統合化が同時に進んでいます。
著者は、このように組織が限りなく細分化、孤立化し、全体状況に対応できない状況を
「サイロ・エフェクト」
と名づけ、ソニー、UBS、フェイスブック、クリーブランド・クリニック、ニューヨーク支庁などの事例から、サイロの弊害に陥ったケースとうまく切り抜けたケースを紹介しています。
目次
サイロはなぜ発生するのか
18世紀の経済学者のアダム・スミスは、「社会は分業によって栄える」と述べて以来、組織は細分化・専門化の道を推し進めてきました。
これは社会が発展する必然的な流れと言えますが、この細分化(サイロ)は、良い面だけでなく、悪い面も呈するようになります。
その弊害とは、
- 専門家チームが敵対し、組織の資源を浪費してしまう
- 高度な専門化により、相互に情報をやりとりすることができなくなり、高い代償をともなう危険なリスクを見逃してしまう
- 組織の細分化は情報のボトルネックを生み出し、イノベーションの発生を遅らせる
- サイロは心理的な視野を狭め、周りが見えなくなるような状況を引き起こし、人を愚かな行動に走らせる
ソニーはなぜつまづいたのか
本書では、1990年代の後半のソニーの事例を紹介しています。
当時はエンターテイメントとエレクトロニクスの二つの業界を牽引する世界のトップ企業であったソニーは、来たるべくインターネット社会にどう対応するのかが注目を集めていました。
しかし、ソニーは戦略を見誤ります。
市場がソニーに期待する中、互換性のない三種類のデジタル・オーディオ・プレイヤーを発表したのです。
この背景には、1990年代末には16万人の従業員を抱えるソニーは、この巨大組織を効率的に運営するために、組織を極度に細分化しました。
この結果、お互いの部門間での情報交換が行われず、各部門が製品開発をし、発表するという事態に至ってしまったのです。
残念なことにあれほど市場から期待されたソニーはデジタル・オーディオ部門での勝者になることは叶いませんでした。
それとは対照的に、アップルのスティーブ・ジョブズは、組織を細分化することなく一体で管理し、開発する製品数も絞り込み、2001年にiPoidを発表します。
ソニーの事例にもあるように、企業は成長することが至上命題ですが、成長するにつれて組織も大規模化していきます。
最適な組織のサイズとは
イギリスの進化生物学者で人類学者のロビン・ダンバーという人が居ます。
ダンバーは霊長類の研究から組織が有効に機能する規模に関する理論を提示しました。
それは「ダンバー数」と呼ばれるものです。
ダンバーによれば、社会が効率的に機能することと、脳の大きさには関係があると言っています。
例えば、サルや類人猿など脳が小さいと、限られた数(20〜30)の相手としか有意義な社会的関係を結べなくなります。
しかし、人間のように脳が大きくなると、より大きな社会的関係を形成できるようになります。
その結果、人間は150人前後の集団が最適な規模であると言います。
集団がそれ以上の規模になると、直接的交流が難しくなってしまい、その障害を克服するために、強制や官僚機構といった仕組みを導入せざるを得なくなります。
ファイスブックでは、組織が大きくなりいわゆる「大企業病」にならないようにするために、管理職の行動についてあるルールを設け居ています。
それは、お互いについて語るときには具体名を挙げること、それも本名を使うことです。
これは、組織の規模が大きくなると、往々にして「経理部がだめだから」「営業部が言うことを聞かないから」とか非人格化した呼称を使うようになります。
このように特定のグループを非人格化すると、そこに所属する人のことを無視してしまう傾向があります。
それを諫めるために、個人名で呼び合うようにしています。
組織運営のいい事例として参考になります。
サイロを克服できるか
現代社会では、専門化・分業化は避けられない流れです。
それでは、組織がサイロ化しないためには、何をすればいいのでしょうか。
筆者は、サイロ化への対抗措置として、次のようなアイデアを提示しています。
- 大規模な組織においては部門の境界を柔軟で流動的にする(イノベーションはある分野が別の分野と接する淵の部分、つまりサイロが崩れた場所で起きる)
- 報酬制度を見直し、所属するグループの業績だけにもとづいて報酬が決まるようにする
- 同時にグループ同士が協力することで報酬が決まるような協調重視の報酬制度を導入する
- 多様な解釈に組織が耳を傾けるようにする
- 個々のサイロの内側にいる人々に他の場所では何が起きているかを伝える「文化の翻訳家」的な役割をもつ機能を導入する
最後に
いかがでしたか。
この書籍では、意識していないと組織はサイロ化してしまう傾向にありますし、組織の分業化・専門化は必要なものです。
組織を効率的に運営するという点で参考になる一冊です。