書評「エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ」
この本は、途上国援助という名目の裏に隠されている政官財が一体となった搾取の構図を、その中心で「エコノミクットマン(EMH)」と呼ばれ活躍していた人物が描いた回顧録的な作品です。
作者であるジョン・パーキンス氏は、「ニューハンプシャー州の田舎に生まれ、厳格な両親のもとに育ちました。
ボストン大学を卒業してまもく、成功を目指す野心を抱いた若者だったパーキンスは偶然に導かれて、思いもよらない人生を歩むことになります。
国家安全保障局(NAS)に適性を認められてスカウトされ、その手配によって国際的なコンサルティング会社であるメイン社に雇われ、グローバリズムの闇の部分を担うエコノミックヒットマンに仕立て上げられてしまいます。
まさに「表の顔は一流コンサルティング会社のチーフエコミスト。裏の顔は工作員」と言った感じです。
パーキンス氏によれば、EMHとは、
「…EMHにとって権力や金や天然資源をめぐる戦いだ。世界支配を追求するため、少数の強欲な人々が夢見る世界帝国のための闘いの一部分なのだ。世界帝国を築くこと、それこそ私たちEMHが得意とするところだ。
アメリカの大企業や政府や大銀行の率いるコーポレートクラシーが他の国々を思いのままに操れる状況を作り出す。
マフィアの組織のヒットマンと同じく、EMHはまず恩恵を施す。それは発電プラントや高速道路、港湾施設、空港、工業団地などのインフラ設備を建設するための融資という形をとる。
融資の条件は、そうしたプロジェクトの建設をアメリカの企業に請け負わせることだ。
要するに、資金の大半はアメリカから流出しない。
たんにワシントンの銀行のオフィスから、ニューヨークやヒューストンやサンフランシスコのエンジニアリング会社へ送金されるだけの話だ。
金がたちまちにして、コーポレートクラシーの一員である企業群へと還流する事実にもかかわらず、融資を受けた被援助国は元金ばかりでなく利息まで返済を求められる。
EMHの働きが完璧に成功した場合、融資額は膨大で、数年後に債務国は債務不履行に陥ってしまう。そうなれば、マフィアと同じく厳しい代償を求める。代償はさまざまな形をとる。
たとえば、国連での投票権の操作、軍事基地の設置、石油やパナマ運河などの貴重な資源へのアクセス。
もちろん、それで借金が帳消しになるわけではない―わが世界帝国にまたひとつ国が加わったとうことだ」
この結果、第三世界の債務は増え続け、2004年時点で二兆五千億ドル以上になり、利息だけで年間三千七百五十億ドル以上の負担となりました。
このような搾取の構造を見透かして、反対の動きをとった指導者にはパナマのトリホス将軍やエクアドルのロドルス大統領などがいました。
そのような人物に対しては、EMHが退いた後「ジャッカル」と呼ばれる、暗殺をも辞さない集団が活躍します。
仮に、ジャッカルの企てが失敗しても、イラクのように軍隊の投入といった強硬な手段が取られる構造になっています。
本書は、途上国を食い物にした搾取が驚くべき巧妙さで進められていく様子が、そのような活動に自責の念を感じた著者によって、生々しく描かれています。
作者はEMHを辞めてから環境保護のNPOを立ち上げ、それまでとは全く正反対の世界で暮らしています。
確かに現在の活動は称賛に値すべきものでありますが、その活動は彼の以前の活動やそれによる十分すぎるぐらいの報酬がなければ成立しないにもかかわらず、過去については否定
的に描いていることに違和感を感じます。
たとえば、筆者が自分の活動に自責の念を感じるのは、社内の恋人とカリブ海を自家用ヨットでクルージング中の時と、とても普通の人間ではなしえない状況です。
また、筆者はかってはEMHとは特殊な集団の活動であるが、グローバル化した経済の中では全ての企業がEMH的であると言っています。
たしかに、日本での公共事業にも作者が指摘するような側面があるとは思うが、そのような解釈は自分の活動に対する責任回避的な印象がぬぐえませんでした。