業務改革のキモ ヒーローを作れ!
数年前にある企業の事業再生に取り組んだことがありました。
目次
10年前は最高益を達成したのに…
その会社は、60年近くの歴史をもつ創業者一族が経営する老舗メーカーです。
家電製品を取り扱っています。
自社ブランド製品はありますが、大手家電メーカーのOEM生産の比率が高い製品構成となっています。
この会社は大手の家電メーカーと共に業績を拡大してゆきました。
販売先は国内だけでなく、北米や欧州にまで広がり、現地事務所も開設しました。
また、生産拠点としてタイに二つの工場を立ち上げ、4000名近い現地社員を雇って大規模な生産を行っていました。
そんな中、2007年度はついに売上が最高値を記録します。
しかし、そんな我が世の春を謳歌している最中にリーマンショックが日本を襲い、これがこの会社の転落の契機となったのです。
リーマンショックの影響で主要取引先であった大手家電メーカーの業績が一気に悪化し、その結果、この会社への注文量が激減してしまいました。
最高益を記録した翌年の2008年度からは業績は急激に低下し、我々が経営支援に入る直前の2015年度には、売上は10分の一の事業規模になってしまいました。
たった10年でです!
この間には、日本国内での希望退職者の募集、海外の販売事務所の閉鎖と市場からの撤退、タイ工場の従業員半減など大規模なリストラだけでなく、現状を改善する対処プロ
グラムの実施が行われました。
しかし、業績悪化を食い止めることはできませんでした。
事業再生の開始
この会社のメインバンクから依頼を受けた事業再生会社が、創業家一族から株式を買い取って子会社して、事業再生をすることになりました。
その事業再生会社からは、子会社の社長、財務担当役員、営業担当役員の三名が出向くことになり、私も経営企画担当として再生チームに加わりました。
会社は長年のリストラ続きで残った社員も疲弊気味でした。
しかし、新しい株主の下での再出発に対して期待をしていた反面、新経営陣が掲げる三年間で売上を倍増させるというV字回復目標には「自分たちにできるのだろうか」と若干の不安がある感じでした。
この不安の背景には、社内の独特の雰囲気があることに経営チームは気づきました。
この企業は、創業オーナーの強力なリーダーシップで事業運営が進められていました。
このため、社員はトップが指示することだけを実直に取り組む傾向があり、その指示が現場から見て問題があってもなかなか意見具申ができなかったのです。
この状況では最初の打ち手がが重要
経営チームとしては、事前の調査から会社が取り組むべきことに関してイメージがありました。
しかし、トップが社員が取り組むことを独断で決め、それを下に指示してしまうのは、前の経営者がやっていたことと同じことになり、改革が成功する確率が低くなるだろうと判断しました。
会社を良くしていくためには、社員が自主的に課題に取り組む必要があります。
社員が現在の会社の状況をどのように感じており、どうすれば良くなるのかを声に出すことが、まず取り組むべきこととして認識されました。
この判断に基づいて、経営チームは、約一月掛けて全ての事業所・工場を訪問し、社員との対話集会(ワークショップ)を開催しました。
ワークショップには、研究開発、生産(タイ工場)、調達、営業、経理・総務と全ての部門から社員が参加しました。
各部門のトップには生え抜きの部門長がいましたが、希望退職制度の影響もあり全員が40歳代と若い陣容です。
部門毎に社員に集まってもらい、自分たちが担当する業務の流れを整理しながら、どのような問題や課題があるかをポストイットに書き出してもらいました。
このワークショップ・セッションを通じて、約450ほどのコメントが集まられました。
まだこの段階では、コメントのレベル間もまちまちだし、様々な要因が複雑に入り組んで関係し合っており、何から取り組むべきか判らない状態でした。
類似したコメントの集約、コメント同士の抽象レベルの調整、コメント間の因果関係の整理などを繰り返し、27の課題にまとめ、その課題間の要因関連図を作成したのです。
この会社は長期的な低迷によって、メーカーの生命線とも言える「ものづくりの力」が弱まってしまっており、製品の魅力や価格競争力が失われていました。
これが、売上の低下に繋がっていたのです。
ものづくりの力の低下は、研究開発や生産といった部門だけの問題ではなく、営業や調達といった関連部門も影響していたし、人事制度や情報インフラなど組織横断的な要素も影響していたことが判りました。
この理解に基づいて、取り組むべき改革テーマが決められました。それは、「営業」「調達」「開発・生産」といった三つの特定課題プログラムと、「人事」「情報インフラ」「財務会計」「コミュニケーション」といった四つの部門横断プログラムの合計七つの改革プログラムで構成されました。
改革のヒーローの登場
そこから約半年間に渡る改革プログラムの検討・実施が行われました。
しかし、残念ながら、全てのプログラムで成果が出たという訳ではなく、ある取り組みは全く失敗に終わってしまいました。
部門長にやる気がなかったわけではありませんでした。
また、取り組むべき課題も自分たちの問題意識にもとづいた内容で、「上」から与えられたものでもありませんでした。
ここでこの改革の動きにうまく乗った成功者の話をしたいと思います。それは購買部門のA部長さんです。
この購買部門のA部長は、最初は新経営陣に対しては懐疑的な目を持っており、「対話集会なんかしても駄目でしょ」という態度を漂わせていました。
しかし、ワークショップを通じて、上から指示が与えられるのではなく、自分たちで取り組むべき課題の進め方を決められると言うことを知って、態度が変わりました。
購買部門は、会社が好調の時には多くの仕入れ先が何とか取引をしようと、まさに「門前市を成す」状況で、納品に当たっても最優先で対応してもらえていました。
しかし、業績が悪化し、取扱量が少なくなると、そのような優遇的な措置もなくなり、取引先との力関係が逆転している状況でした。
A部長は、既存の仕入れ先との関係再構築や新規仕入れ先の開拓などの活動だけでなく、部材の発注方法や工場内の物流の仕組みにも改善を加え、在庫コストの最適化を行いました。
この取り組みが評価され、A部長は執行役員に昇進することになったのです。
最後に
いかがでしたか
業務改革では、このように改革を我が事と捉えて取り組む社員がいることが成功の鍵です。
そういう人たちにスポットライトを当てることで、さらに改革に勢いがつきます。
ヒーローを作ることです。