稀代のバットマンが説く人心掌握術とは?
「名選手、名監督ならず」とよく言われるが、この人には当てはまらないようです。
落合博満。選手として日本プロ野球史上初の三度の三冠王の獲得、監督として四度のリーグ優勝、一度の日本一を成し遂げました。
落合氏は、1998年現役引退後、2004年に中日ドラゴンズの監督に就任する間の2001年に野球解説者として活動していた頃に「コーチング―言葉と信念の魔術」という書籍を上梓しました。
指導者の視点というよりも、選手時代の体験から指導者としてはどうあるべきかを説いたないようになっています。
プロ野球という特殊な世界のことを語っているが、本質的には「人をどう育てるか」という点で見ると、一般の組織に当てはまる事が多いです。
良い指導者の条件
落合氏によれば、良い指導者というのは、
- 過去の成功体験にしがみつかない
- 相手の長所・短所を見抜く鋭い観察力
- 相手の自主性を促すコミニュケーションができる、
などの特質があるそうです。
プロ野球という選りすぐられたアスリートの集団においては、ただ資質があるというだけでは成功できません。
いかにして、他の選手にはない独自のスタイルがつくれるかが鍵になります。
コーチはその手助けをするために存在しますが、選手の特徴を考えずに自分の過去に成功したやり方で指導するコーチが多いようです。
そのため、才能のある選手が日の目を見ないまま引退してしまいます。
たしかに「こうしろ」というのは、コーチにとって非常に簡単です。
しかし、ひとりひとりの持っている課題は同じではないので、コーチは多様性に対する容度や先入観をもたずに相手の事を分析する力が要求されます。
この点は、現在の福岡ソフトバンクホークスの監督である工藤公康氏も同じようなことを述べています。
「私の理想としては、コーチには「教える」前に選手を「見ること」「感じること」が必要で、続いて話を「聞いて」相手の状態を理解し、最後にようやく「アドバイス」するというプロセスをたどるべきだと信じています。アドバイスは決して考えを押しつけるものであってはならないのです。あくまで選手の持つ能力を最大限に引き出すため、一緒に考えるための“助言”であるべきなのです」(日本経済新聞 2013/5/21)
ただ、落合氏は、仮に修正すべきポイントがわかったとしても、それをすぐに伝えてはいけないと言います。
と言うのも、選手というのは、自らの技術を向上させるにはまず本人が考え抜いて取組むべきで、そうしても結果がでない場合にはじめてコーチにアドバイスを求めるべきで、コーチはそれまでじっと待っていなければなりません。
この自ら考える姿勢や向上心というのがプロの世界で成功する要素だと言っています。
コーチに求められる要件として、選手からアドバイスを求められた際に相手が納得・理解できるように説明するコミュニケーション力をあげています。
組織をリードする者として、過去の成功体験にすがるのではなく、常に自己を向上させる事が重要であるかを改めて認識した一冊です。