コンサルプロジェクトにおけるスタイルと限界効用逓減の法則
目次
限界効用逓減の法則
初めて経験した時の印象や感激は強かったのですが、
それが何回も続くと当たり前のようになってしまうという経験をしたことはありませんか。
初めての買った自動車や、初めて乗った新幹線のグリーン席や、初めて利用した空港のラウンジとか、他にも例を挙げればきりがありません。
慣れと言ってしまえばそれまでなのですが、このような状態を経済学では「限界効用逓減の法則」と言っています。
もう少し専門的な用語を使うと、モノやサービスなどの「財」を消費することで得られるメリットを「効用」と言います。
その財の消費量が増えるにつれて、追加分から得られる効用は次第に小さくなるという法則のことです。
この法則は自動車やグリーン席の利用など日常的な場面だけでなく、我々コンサルタントが関わっているプロジェクト現場でも見られます。
あるグローバルプロジェクトでの出来事
それは、あるグローバル企業のプロジェクトに参加したときの話です。
その企業では全世界的に情報システムの刷新を進めており、ようやく日本での導入に先駆け、現行の業務プロセスの棚卸しが必要になり、外部のコンサルタントを招聘して進めることになり、あるコンサルティング会社と契約しました。
当初は一名体制で進めていたのですが、作業が想定以上に多いことがわかり、支援の依頼をもらい私が、最初からいる一名のプロジェクトマネジャーをサポートする形で参加することになりました。
プロジェクトの作業内容やスケジュールは全てそのプロジェクトマネジャーが担当していました。
2名体制になったことで、分析作業は順調に進められていました。
しかし、この企業の収益の見通しが芳しくないことが判明し、グローバルの本社から各国に経費の削減を指示されました。
コンサルティング契約とい最も目につきやすい費用が削減の対象になり、急遽契約期間が二ヶ月前倒しで終了となりました。
日本側の関係者は申し訳なさそうにしていましいたが、決まったことなのでそれに従うしかありません。
契約期間が見直され、活動期間が残り一ヶ月ほどになったことで、当初予定していた作業内容の見直しを迫られたわけです。
それまでの期間でクライアントのプロジェクト責任者からは、プロジェクトに参加する社員の参画意識の低さが懸念事項として示されていました。
側から見ていてもその雰囲気は感じ取られていたので、一ヶ月あればこれまでの検討結果を主要な関係者に落とし込むような内容、例えば検討内容に基づいて今後システム開発を進めた場合、どのような影響が自分たちの業務に発生し、それにどう対応するかを検討する討議が良いのではと考えていました。
しかし、そのプロジェクトマネジャーが採用したプランは、クライアント側が数名のグループを構成して検討した結果作成した資料を作り直すというものでした。
この検討内容はすでにグローバル側のプロジェクト関係者にも共有され、承認を得ていました。
ところが、プロジェクトマネジャーは「このような検討結果のまとめはわかりにくいので、資料は最初から自分が入って作り直したほうが良い」と言い、その作り直しも自分一人で進めると決めました。
検討結果はすでに関係者と合意されているし、仮にその後他の誰かが資料を見て不明な点があれば検討メンバーは社内にいるので、直接聞けば済むことです。
この点から、これ以上資料を手直ししたところで結果が変わるわけではなく、クライアントに提供される価値はそれ程高くないと想像されます。
それよりもクライアントには他に懸念点があったので、それに向き合う方がクライアントの満足度は高まるはずでした。
クライアントのプロジェクト責任者は、自分たちよりもプロジェクト経験の豊富なコンサルタントが言うことなので、提案内容を承認したものの、どこか煮え切らない感じでした。
この出来事からの何が言えるか
プロジェクトというのは、ある経営課題を解決するために、限られた期間内で与えられたリソース(ヒト、モノ、カネ)を使って行う取り組みと言えます。
重要な点としては、解決すべき課題(目標)があることで、それをどのように解決するかは期間やリソースという成約の中で最も効果的・孤立的なアプローチを採用することになりますが、そのアプローチには唯一無二の正解があるわけでなく、目標がきちんと達成されたかどうかで判断されます。
ここからも、どのようなアプローチを取るかはコンサルタントが経験や知識など使う、いわば「腕の見せ所」で、それはコンサルタントによって異なりますし、一緒に働くメンバーとしては、独自のスタイルやアプローチは尊重するのが礼儀です。
しかし、先ほどの事例のようにプロジェクト現場で方針が変わった場合は、当初立てた計画を見直す必要が出てきます。
その場合は、まずは残された期間内で当初立てた目標が達成されるかを吟味する必要があります。
その目標が達成されないと見込まれる場合は、限られた期間内で何をすればクライアントの満足度が向上するかで、作業計画を組み直すことが求められます。
先ほどの例で言うと、資料の作り直しはたしかに必要なのかもしれませんが、クライアントの満足度という点では、他にやるべき事があったので、適切な判断ではなかったのではという疑問が生まれます。
つまり、資料の作り直しは、クライアントの限界効用の増加と言う点では最適な作業ではなかったと言うことです。
けれども、コンサルティングというのは先ほど言ったように唯一無二の正解のない手法なので、あるコンサルが取ったアプローチについて意義や疑問を訴えても、どちらも正解とも言えるので結局のところ神学論争のようになってしまい、決着がつかないのもまた事実です。
この経験から、混成チームによるプロジェクト運営の難しさと一種の限界を感じ、これをどう乗り越えていくかは個人的にも課題となりました。