業務改革のキモ:正しい手法を使う
永らくコンサルティングをやっていると、携わるプロジェクトがいつも成功裡に終わると言うことはありません。
今日は、過去に経験した「失敗」プロジェクトのひとつについて書きます。
目次
ある情報サービス提供会社でのプロジェクト
それは、まだコンサルタントになってから一年ほどに参加したプロジェクトです。
当日勤めていたコンサルティング会社は、クライアントへのサービス提供する際の手順やテンプレートを整備し、どんなコンサルタントでも同じ品質のサービスを確保するようにしていました。
所謂、「メソドロジー(方法論)コンサルティング会社」という会社です。
方法論を整備しているのは、誰がやっても同じサービスを提供するだけでなく、その後に情報システムの導入や更新で莫大なコンサルティング・フィーを得ようという狙いがありました。
クライアントは、情報提供サービス会社(業種や社名を言うと判ってしまうので、あえて情報提供サービス会社としています)で、創業70年近くの歴史を持つ老舗企業です。
この会社は、情報技術の進展からこれまで提供していた商品が、近い将来陳腐化するという懸念を抱えていました。
この状況を打破するために、経営陣としては新しい商品の開発をしたい意向がありました。
しかし、商品開発を担う研究開発部門がどのような仕事をしているのかが、「ブラックボックス」化して、よく判らなくなっていました。
そこで、私が勤務しているコンサルティング会社に相談がありました。
営業面に関して、そのコンサルティング会社は、他とは違っているところがあり、社内に営業専門の社員がひとりいました。
この人は、バックグランドは経営コンサルタントではないのですが、非常に幅広いネットワークを持っており、そこから色々とコンサルティングに関する相談があり、案件化すると
いう仕事をしていました。
情報提供サービス会社からの相談もこの営業担当宛にあったのですが、この営業担当が提案したのが、当時このコンサルティング会社で売り出し中のサービスである「活動基準原価
計算」を用いた分析でした。
活動基準原価計算とは
活動基準原価計算というのは、英語では「Activity-Based Costing」と呼ばれ、その頭文字を取って「ABC」とも言われます。
活動基準原価計算の考え方のベースになっているのが、企業が製品・サービスのラインアップを充実させていく中で、間接費をどのように振り分けて製品・サービスの収益管理をするかという課題です。
それまでは、間接費を製品・サービスの売上の比率などで振り分け(配賦)していましたが、コストの本来の発生要因とは異なるものを基準としているため、実態とずれていたという問題がありました。
ABCは、製品にかかっているコストをできるだけ正確に把握することで、この問題を解決しようとしたものです。
分析の具体的な進め方としては、
- 各部門の業務をできる限り細かく「分類」する
- 分類された業務がどの製品・サービスを対象にしているかを区別する(同じ作業であっても製品・サービス毎で区別する場合もある)
- 各業務の担当者は「誰が」を明確にする(実施している人員数も含む)
- 各業務が「どのくらいの頻度」で発生するか見積もる
- 各業務が「どのくらいの時間」で処理されるかを記録する
- 年間の労働時間からみて、差分の使い方を確認する
(例えば、会議の時間、庶務作業、人事考課表の記入など)
この作業により、業務プロセスが「可視化」され、
- 売上と比較して、過剰に間接コストを投じている製品・サービスはないか
- 製品・サービスの提供とい視点から見て、価値を提供していない業務はないか(例えば、不必要なチェック作業)
- 業務の流れという点から、より効率的になる余地はないか
といった点が検証でき、コストの最適配賦や業務の効率化機会が明確になります。
なぜそのプロジェクトは炎上したのか?その原因は?
このようにプロジェクトでは、活動基準原価計算による分析を用いたのですが、その分析対象が研究開発部門だったことが、問題でした。
分析は、開発部門の社員への聞き取り調査(インタビュー)で進められました。
- 私:「一日どのように過ごされるかを教えて下さい」
- 開発部門社員:「朝一で部内の打ち合わせをしてから、次に○○をして、次に△△をして、それから喫煙室に行って休憩を30分ほど取ります」
- 私:「30分の休憩はちょっと長いんじゃないですか」
- 開発部門社員:「そうですかね?以外に一服している時にいい考えがひらめくこともあるんですよ」
- 私:「なるほど…」
誰に聞いても、こんな感じのやりとりが続いてしまいます。
結局、私たちはクライアントが満足する分析ができないままプロジェクトを終えることになりました。
問題はどこにあったのでしょうか。
今思い返してみると、色々な要因が絡み合ってこのような結果になったのです。
- 活動基準原価計算による分析は、経理や営業事務など定型的な業務の比率の高い部門を対象にした場合は有効なツールなのですが、研究開発のような非定型的な業務の比率の高い部門の分析には適していなかったのです。
- 我々のチームは、あくまでもこの手法を用いることを優先してしまい、プロジェクトの目的である「今後予想される環境変化に、研究開発の業務や体制を対応させる際の考え方や視点はどのようなものか」を見失っていました。
- プロジェクトのオーナーである役員には、営業担当がコンタクトすることになっていたが、双方が忙しくて軌道修正を検討する場を持てませんでした。いわゆる、「クライアントの期待値のコントロール」ができなかったのです。
あくまでも、プロジェクトの目的から考えれば、適さない手法には見切りをつけ、別のやり方を取るべきでした。
しかし、分析作業自体に追われていた中では、それに気づく余裕すらなかったのです。
目的に合った適切なツール・手法を用いることの重要性は、コンサルティング会社に入ってから研修等で学んでいたのですが、理解したことがそのまま現場できないことを実感しました。
最後に
本日の記事はいかがでしたか。
この一件は、私がコンサルタントを続ける上で本当に貴重な体験と言え、今でも思い出すことがあります。