どうなるコンサルティング業界?
数年前にコンサルティング業界の今後について、米国で議論が交わされたことがありました。
目次
コンサルティング業界も破壊的変化に晒される
一方は、ハーバード・ビジネス・スクールの教授で、『イノベーションのジレンマ』という著作で有名なクレイトン・クリステンセン氏です。
クリステンセン教授によれば、コンサルティング業界はそのサービスの見えにくさと俊敏性によって、破壊的な変化を免れてきたが、その優位性が薄れつつあると主張してます。
クリステンセン教授は、この說を2013年10月にハーバード・ビジネス・レビュー誌で発表しています。(邦題「コンサルティング業界は変われるか」)
ちなみに、クリステンセン氏は、大学の教授になる前はコンサルティング会社に勤務した経験をお持ちです。
この論文での主なポイントは、
- コンサルティングというサービスは、顧客から見れば事前にその品質を見極めることが難しく、どうしてもコンサルティング会社の評判やコンサルタントの学歴などで判断せざるを得なかった。その結果、莫大なコンサルティング・フィーを支払うことになる。
- しかし、企業にもコンサルティング会社で働いた経験のある社員を採用するようになると、どのようなサービスを受ければいいか吟味できるようになり、コンサルティング会社に対する要求が厳しくなっている。
- これまでコンサルティング会社が得意としていたデータ収集・分析などの業務を専門とする会社も出現し、知識の普及とオープン化が進むようになった。
- 最新の予測技術やビックデータ解析などの技術進歩がコンサルティング会社の脅威になる可能性がある。
- その結果として、全てお任せの包括的なサービスを提供するファームから、特定の具体的なソリューションを提供するファームに移行する傾向が現れている。
- コンサルティング業界内も、トップレベルの超有名ファームが生き残り、二番手グループが淘汰されるだろう。・コンサルティング業界の周辺領域との融合が起きることで、新たなサービスが生まれる可能性がある。
コンサルティング業界に破壊的変化は起こらない
大手コンサルティングファームでBCGの会長であるハンスポール・バークナー氏は、クリステン氏の主張に反論しています。(「コンサルティング業界にクリステンセン氏が言う「破
壊的変化」は起こらない」ハーバード・ビジネス・レビューhttp://www.dhbr.net/articles/-/2704)
その主張のポイントは、
- コンサルティングファームの仕事も時代を経て変化しており、現在はデータ収集や分析といった従来型のサービスではなく、顧客と共に大きな変革を実現するサポートに注力している。
- ビッグデータ関連技術や知識のオープン化によって、専門ファームやベンチャー企業に取って代わるようなことはなく、伝統的なコンサルティングファームのその深化を取り入れていくことになる。それは、コンサルティング業界の裾野が広がり、深化することを意味している。
- コンサルティングファームというのは、ただ単にデータを収集することに価値を求めているのではなく、そのデータの持つ意味合いを解釈し、解決策(ソリューション)として提示することにあり、その差は大きい。
- コンサルティングファームのフィーが高額と言われているが、コンサルティングファームが提供するのは、「価値創造」である。具体的には、顧客企業の売上げアップ、、コスト削減、収益性の改善、時価総額の向上、市場シェアの拡大、組織能力が向上等。それらの価値が実現されるのであれば、フィーは高額とは言えない。
コンサルティング業界はどうなるか
どちらも示唆に富んだ内容を話されていますが、個人的にはクリステンセン教授が言っている内容に共感するところが多いです。
この議論が起きたのは、2013年頃で、コンサルティング業界に破壊的な変化が起きたという状況にはなっていませんが、徐々にその兆しは見えつつあります。
例えば、業界のトップを占めている戦略系ファームと言われるコンサルティング会社は淘汰の波に去られています。
- 競争戦略で有名なハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授達が設立したモニター・グループは、2013年1月にデロイト トウシュトーマツに買収されました。
- 世界で初めて「経営コンサルティング」という専門職を初めて提唱したブーズ・アレン・ハミルトンは、創立100周年を迎えた2014年4月に、PwCネットワークの一員となりました。
私が戦略系ファームに在籍していた頃も、ファーム内では自分たちのあり方について議論が交わされていました。
それまでは、戦略系ファームと言えば、企業の中長期戦略(中には10年間のプラン)の作成を得意としていました。
しかし、市場環境の変化のスピードがめまぐるしく、人間よりも成長の早い犬にとって1年は人間の7年に当たることににたとえて、「ドッグイヤー」などとも言われるようになりました。
その結果、将来何が起きるかは予測が難しくなったため、長期間の戦略を作ることの意味が薄れてきて、企業戦略のスパンがどんどん短くなってきました。
この変化を受けて、ファームの中では、単に戦略を作るだけでなく、その戦略が実行できる内容で、成果の出るようなサポートをするべきだという話になりました。
(昔はコンサルティング会社が長期戦略を作っても、それは取締役の書棚にきれいに収められるだけだという話もありました。真偽の程は定かではないですが…)
こうして、戦略系ファームがよりクライアントの実務が行われている現場に出向いて、クライアントと共に戦略をどう実行するかという取り組みが始まりました。
この方向性自体は良かったのですが、問題はコンサルティングファームのフィーの高さでした。
通常は短期間のプロジェクトが多かったため、クライアントにとってはフィーが高額でも負担できる範囲でした。
しかし、現場にどっぷり浸かって活動することになると、期間も長期間になるため、クライアント側で負担できなくなり、「志半ば」で、後はクライアントの皆さんにお任せすることになりました。
「プロフェッショナルコンサルティング」
同じようなことは、「プロフェッショナルコンサルティング」という書籍の中でも語られています。
この書籍は、元マッキンゼー出身の波頭亮氏と、「カリスマ再生請負人」として知られる元BCG出身の冨山和彦氏の共著になります。
この中で、両氏はこのように述べています。
- 1980年代、90年代と比べると、起業戦略は複雑・高度化し、経営コンサルティングに求められるものも変わってきた。
- 1980年代は戦略策定、1990年代は組織戦略、制度改革。
- 2000年代になって、組織の実行力をどう向上させるかが重要な課題となり、それにはリーダーの育成が鍵になる。
- その中で、 コンサルタントは、自らが変革の推進者として現場を動かし、ビジネスリーダーを単に「教える」だけでなく「育て上げる」ことが必要となり、その意味では、コンサルタントも「執行力」が求められる。
最後に
いかがでしたか。
コンサルティング業界がどのように変容していくか、動向が注目されます。