お客様の○○をコントロールするとプロジェクトは上手くいく
コンサルティングというサービスは、AV機器や自動車のように目に見える形で提供されないものです。
この点は、コンサルタントからするとコンサルティングを売りにくくしています。
一方、お客様からすると何をやってもらえるのか、どこまでやってもらえるのかを判りにくくしています。
実際にプロジェクトを始めてお客様から「えっ!これはやってもらえると思っていたのに。何でやっていないのですか」と言われることがあります。
この時に、キーワードとなるのが、お客様の「期待値のコントール」です。
目次
あるプロジェクトで起きた事
ある会社の事業再生の支援をしていた時の話です。
その会社の情報システムは、既存のアプリケーションを導入するのではなく、自社で独自に開発し、機能追加や仕様変更も自分たちで行ってきました。
しかし、リーマンショック以降、この会社の業績は回復を見せることがなく、事業不振が続いていました。
このため、情報システムの人員を削減せざるを得ず、社内システムの整備が長年に渡り放置されたままになりました。
外部からの経営支援を仰ぐことになったのですが、事業再生の取り組み課題の一つとして、この老朽化したシステムを再構築することがあげられました。
システムの再構築にあたっては、自分たちでシステムを作るのではなく、外部のパッケージアプリケーションであるERPシステムを導入することになりました。
ERPというのは、Enterprise Resources Planning の略で、日本語では「基幹系情報システム」との言われるアプリケーションです。
私自身は、この取り組みには参加しませんでした。
外部からITコンサルタントを採用し、このシステム開発をリードしてもらうことになりました。このITコンサルタントの指導の下、システム開発業者(システムベンダー)が実際のアプリケーションの開発導入にあたる体制で臨みました。
社内での聞き取り調査
まず、このベンダーが行ったのが、社内でどのような業務がどのような流れで行われているのかを聞き取り調査することでした。
このベンダーに決定するときには、どのようなアプリケーションが導入されるのかは決まっていました。
しかし、具体的にこのアプリケーションにどのような機能が備わっているのかについては、社内に充分な説明がされないまま、聞き取り調査が始まりました。
社員の側からすると、「色々と説明しているのだけど一体どうなるのだろう」という懸念が出始め、「一体どんなシステムになるのですか」という質問が出ました。
それに対して、ベンダーからは「聞き取り調査が全部済んで、システムとのギャップを把握した上でお答えします」と明言を避けました。
聞き取り調査の中では、現在の仕事の進め方だけでなく、現場が変えている悩みや問題も聞いていた様です。
そんな作業が続いていくうちに、社員の中には「システムはこんなこともできる」「あんなこともできる」とどんどん期待が膨らんでゆきました。
やがて聞き取り調査も終わったのですが、ここで問題が発生します。
大量のカスタム開発の発生
この会社の業務の進め方や、社員の要望や悩みを解決しようとすると、このERPシステムの基本機能だけでは解決することができず、大量の追加開発(カスタム開発)が必要になりました。
その追加の工数を見積もると、予算を大幅に上回ることになり、予算に収めるために多くの要望や機能が削除されることになりました。
この削除の優先づけは、ITコンサルタントとベンダーで行われましたが、その判断基準が開発の難しさに基づいて行われたため、現場の社員はなぜ自分たちの要望が削除されるのかが理解できず、不満や不信が発生しました。
なぜこんなことが起きてしまうのか
この一連の出来事は、コンサルタントとしてお客様の期待をコントロールできなかったが故に起きてしまったと言えます。
お客様の側は、これまで外部と協業してシステム開発をした経験がなく、社内のシステムはすべて内製で作られていました。
この内製のシステムは、自分たちの仕事の進め方や要望を含んだもので、お客様にとってはシステムというのは自分たちの仕事に合わせて作られるものという理解や期待があったはずです。
一方、ベンダー側としては、最初から「何でもできます」と言って後で墓穴を掘というリスクを避けながら作業を進めてきました。
そんな両者の認識の食い違いを解消しないままにしておいたため、最終的にお客様の不満につながったと言えます。
それでは、このような最悪の事態を避けるためには何をすればいいでしょうか。
- プロジェクト目的の共有
- 「やるべきこと」「やるべきでないこと」の明確化
- こまめな作業の進捗
プロジェクト目的の共有
プロジェクトを始めるときには、お客様とこのプロジェクトでは何を実現するのか、プロジェクトの目的について認識を合わせる必要があります。
上記のプロジェクト事例では、ERPシステムを導入することが目的ではなかったのです。本当の目的は、今までの業務の進め方を抜本的に見直して、ムダやムラを排除し、生産性の高いオペレーションを実現することでした。
システムというのはその目的を達成するための手段の一つにすぎません。
この点を把握していなかったために、結局現在の仕事の進め方を踏襲したまま、システムの設計をしてしまいました。
この会社は長年に渡り、自社の中で仕事の進め方を独自に進化させてきたため、世の中で普及しているERPシステムとの考え方と食い違う点が多く、そのやり方をそのままシステム化しようとすると多くの特別対応(カスタム開発)が必要になったという訳です。
「やるべきこと」「やるべきでないこと」の明確化
コンサルタントのサービスは目に見えないものなので、お客様としては「その道のプロなんだから、これくらいはできるだろう」と勝手な思い込みをすることがあります。
プロジェクトが開始前に、その目的に従ってコンサルタントして「やるべきこと」や「やるべきでないこと」を明確に定義し、お客様の同意を得ることです。
こまめな進捗報告
フォーマル、インフォーマルに限らず、お客様にはプロジェクトの進捗について、こまめに報告しなければなりません。
プロジェクトが進むにつれて往々にして、報告が「予定通りに進んでいる」とか「若干遅れ気味」とか目の前の作業にフォーカスすることがよくあります。
報告は、あくまでも作業がプロジェクトの目的に従っているかを念頭に置きながら進めるべきです。
こまめな報告をすることで、お客様の方にもプロジェクトの目的が常に明確になり、あなたが「やるべきこと」以外で依頼することはなくなります。
最後に
いかがでしたか。
プロジェクトを成功に導き、かつお客様の満足を確実なものにするためも、お客様の「期待値」のコントロールは重要な活動になります。