相手との関係が良くなる 知っておくと得する7つのコミュニケーションスキル
目次
昔から人材の強化・育成は深刻な課題だった
江戸時代の中期に荻生徂徠(おぎゅうそらい)という儒学者であり、思想家であり、文献学者であった人物がいました。徂徠が人材管理に関して八つの教訓を残しています。
これは「徂徠訓」と呼ばれています。
- 人の長所を始めより知らんと求むべからず。人を用いて初めて長所のあらわるるものなり
- 人はその長所のみ取らば即ち可なり。短所を知るを要せず
- 己が好みに合う者のみを用うる勿れ
- 小過を咎むる要なし。ただ事を大切になさば可なり
- 用うる上はそのことを十分に委ぬべし
- 上にある者下の者と才智を争うべからず
- 人材は必ず一癖あるものなり。器材なるが故なり。くせを捨てるべから
- かくして良く用うれば事に適し時に応ずる程の人物は必ずこれあり
これを現代の言葉に直すと、
- 人の長所を始めから知ろうとしてはいけない。人を用いて始めて長所が現れるものである。
- 人はその長所のみをとればよい。短所を知る必要はない。
- 自分の好みに合う者だけを用いるな。
- 小さい過ちをとがめる必要はない。ただ仕事を大切にすればよいのだ。
- 人を用いる上はその仕事を十分に委せよ。
- 上にある者は、下の者と才智を争ってはいけない。
- 人材は必ず一癖あるものである。彼は特徴のある器であるからである。癖を捨ててはいけない。
- 以上に着眼して、良く用いれば、事に適し、時に応じる程の人物は必ずいるものである。
徂徠の指摘したことは、現代にも通じるものがあり、いつの時代も人の管理が難しいことを物語っています。
一般社団法人日本能率協会が、経営者に対して現在どのような経営課題に直面しているのかと尋ねたところ、様々な経営課題が上げられましたが、「収益性向上」「売上・利益拡大」「人材の強化」が上位三つを連ねています。
経営者が直面している課題
1位 収益性向上
2位 売上・利益拡大
3位 人材の強化(採用・育成・多様化への対応)
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このうち、三位の「人材の強化」をさらに詳細に見ると、従業員3000名以上の大手企業よりも、中堅企業(従業員300〜3000名未満)や中小企業(従業員300名未満)で人材の強化は深刻な課題と考えられています。
企業規模別の比較
・全体:35.9%
・大企業:25.3%
・中堅企業:36.9%
・中小企業:48.7%
このように人材育成は、企業の中心で活躍する管理職にとっても、難易度が高くチャレンジングな取り組みです。
これは別の調査ですが、企業に働く部課長に対して、日頃マネジメントする上で意識していることを尋ねたところ、三割近くの回答者が「部下育成をすること」をあげています。
しかしながら、同調査で回答した二割近くの部課長が「部下が育っておらず、仕事を任せられない」ことがマネジメントをする上での悩みと答えています。
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なぜ、部下育成をすべき部課長が部下の育成に苦労しているのでしょうか。同調査では、さらに部課長としてどのようなスキル・資質が不足しているかと聞いています。その問いに対して、三割の回答者が「コミュニケーション力」を必要なスキルと考えていることが明らかになりました。
以上の調査から、
- 経営者の大きな悩みの一つには、人材の強化がある
- しかし、人材強化の中心となる部課長は、意識はしているものの、なかなか人材が育たずに苦労している
- 部課長にとってマネジメントをする上で重要なスキルの一つは、コミュニケーション力と考えている
という実態が読み取れます。
このような経営者、部課長の悩みはどのような要因で起こっているのでしょうか。そこには二つの力が働いていると考えられます。一つは「情報量の増加」と二つ目は「人材の流動性の向上」
情報量の増加
パソコンやインターネットなど近年の情報技術の進歩はめざましいものがあります。日本では1980年代に16ビットのコンピュータが業務用として発売されました。その頃はまだ値段も高価なもので、オフィスに一台という時代でしたが、それ以降プロセッサの高度化、ハードディスク容量の拡大、通信速度の向上などの技術革新に伴い、パソコンの価格も低価格になり、いまや一人一台は当たり前となりました。
インターネットに代表される情報化の進展により、我々を取り巻く状況は大きく変わっており、変化のスピードは目覚ましいものです。ある説によれば、「ニューヨーク・タイムズ」の平日版には、十七世紀のイギリス人が一生の間で触れたより多くの情報がつまっているそうです。
それくらいの大量の情報は日常的にやりとりされるようになったのです。当然、その情報を用いて様々な作業や判断・意志決定をいち早く行わなければならず、企業で働く者は常に高いストレスがかかっています。
例えば、集計表を作るという作業を考えて見ても、パソコンがオフィスに導入される前は、紙に表の枠組みを手書きで作成して、そこに集計した情報を書き込んで、最後に縦横の総計が合っているかを確認して完成という、半日・一日仕事でした。
しかし、今では表計算ソフトを用いれば、二、三時間でできてしまいます。
このような状況では、次から次にやるべき事が発生してしまい、じっくりと腰を据えて人材を育成することが、どうしても優先順位が下がってしまうようです。
人材の流動性の向上
厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」という調査によると、企業に入社した大学新卒者のうち、三割近くが入社三年目までに退職しています。この離職状況は、短大卒、高卒、中卒になるほど会社を辞める比率が高くなっています。せっかく手塩にかけて育成しても、三年すると三割がいなくなってしまうのでは、なかなか優秀な人材を育てるのは難しくなってしまいます。
「別に新入社員がいなくなっても中途で採れるから心配しなくてもいいのでは」という声が出るかもしれません。しかし、中途採用は企業にとって意外にコストのかかる活動です。
募集広告、採用面接のために社員の時間を確保することによる人件費、ヘッドハンティング会社を使った場合の成功報酬などです。
それだけコストを使っても、希望とする人材が必ずしも見つかるとは限りません。
やはり、いま社内にいる人材をいかに育成していくかが重要になってきますが、なかなかうまくいっていないのが現状のようです。
OECDがホワイトカラーの一人当たりの生産性について国別に比較調査したところ、2018年時点で日本はOECD加盟36カ国中、20位と非常に低い地位にあります。
この傾向は今に始まったわけではなく、1980年頃から常に20位近くを推移しています。
この結果を聞いて、「日本のGDPは世界三位なのに、この調査はおかしいのでは」という指摘をされる人がいるかもしれません。
元ゴールドマン・サックスのトップアナリストのデービッド・アトキンソン氏によると、日本のGDPの額が大きいのは、単に人口が多いことが要因で、一人当たりにすると低くなってしまうと解説しています。
マネジャーとして必要とされるスキルセット
「名選手、名監督ならず」という言葉があります。現役時代は、素晴らしい成績を残していたのに、監督になったら全く駄目だということはよくあります。
やはり指導者として成果を出すためには異なるスキルや経験が必要なようです。
ピーターの法則という法則をご存知でしょうか。
この法則は、南カリフォルニア大学のローレンス・J・ピーター教授が1969年に提唱したものです。
この節によれば階層社会というのは、全ての人は昇進を重ねていくが、次のレベルで要求される職責が果たせない無能な人がその階層に残ってしまいます。
しかし、その状況を補うために、仕事はまだ無能レベルに達していない人によって行われる、という傾向があると言っています。
また、無能レベルに達した人は、自己を正当化し、自分が置かれている困難な状況を他人のせいにする傾向があり、さらに「仕事をしている」という感覚を持ち続けたいために「物」に執着するようです。
例えば、次のような特徴があるといっています。
- 電話依存症、書類溺愛症(机の上を本や書類でぐちゃぐちゃにする)
- 書類恐怖症(机の上に書類一つもない状態にする)、巨大デスク依存症
- 頭文字・略称愛好症、難癖症、外見偏屈症、惰性的馬鹿笑い症
- ファイル偏執症(書類の整理に没頭する)、建造物執着症
- 自己憐憫症(評価している人が誰もいない、有能だった頃を懐かしがる)
- フローチャート狂信症(ルール、手続きへの執着)
- シーソー症候群(自分で決められない)
この法則から言えるのは、マネジャーというのは組織を運営するために必要なスキルを取得しなければならないが、企業としてそれを個人に任せにしておくと、かっては花形プレイヤーであった社員もやがて「無能」な人に陥ってしまいます。それを防止するためにも、人材育成は組織として体系的に取り組む必要があります。
7つのコミュニケーションスキルとは
それではマネジャとシーとして常に成果を出し続ける組織にするためには、どのようなスキル・素養が必要でしょうか。それは、次の四つのスキルです。
- 構想を打ち出す力
- コミュニケーションで人を動かす力
- 組織を統率・運営する力
- プレイヤーとしての力
このうち、コミュニケーションスキルについて、私がコンサルティング、NLP、コーチングなどから習得したことを7つのスキルとして紹介します。
【マネジャーとして必要な7つのコミュニケーションスキル】
- 信頼関係を築く
- 観察する
- 聞く
- 質問する
- 承認する
- フィードバックする
- 提案・要望する
最後に
いかがでしたか。これからこの七つのコミュニケーションスキルについて解説してゆきます。
参考文献
- 「第38回 当面する企業経営課題に関する調査 二歩企業の経営課題2017調査結果[速報版]」一般社団法人日本能率協会(2017年10月18日)
- 「組織活力とマネジメント意識調査」一般社団法人日本能率協会(2018年12月6日)
- 公益財団法人 日本生産性本部プレスリリース「日本生産性本部、「労働生産性の国際比較 2018」(2018年12月19日)
- デービッド・アトキンソン「新・生産性立国論ー人口減少で「経済の常識」が根本から変わった」東洋経済新報社
- ローレンス・J・ピーター/レイモンド・ハル「ピーターの法則―〈創造的〉無能のすすめ」ダイヤモンド社